出産病院(産院)の選び方は「母乳育児支援の方針確認」が重要

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助産師&母乳育児支援者&一児の母。 「ちょっとの勉強で、妊娠・出産・母乳・育児はもっとラクチンできる」「『母乳だけ』も混合栄養も全部母乳育児」という思いで、科学的な視点+リアル感覚の両方から周産期のことを解説しています。 個別のご相談はこちらから →https://baobabu.online/

このページでは大きく分けて2つの情報について書いています。

  1. 「母乳育児をしたい」「それほど積極的に母乳育児したいわけではない」など自分の希望の栄養法に合った病院の選び方
  2. 出産する病院の基本的な選び方

出産病院の選び方は「母乳育児支援の方針確認」が重要

出産する病院を選ぶ時には必ず確認!「母乳推進か?混合栄養推進か?」

「どんな栄養方法で赤ちゃんを育てたいか」は出産病院を選ぶ前に決めておきましょう!

  1. 母乳だけで育ててみたい
  2. 「母乳だけ」に強い思いはないけど、自分の体調やキャパに合わせてできる限り母乳で育てたい
  3. 母乳にはこだわらずミルクとの混合がいい
  4. ミルクだけで育てたい

栄養方法を決めるうえで一番大事なのは「あなた自身の」希望です。

「母乳育児をしないといけない」こともないし、「最初の〇日は絶対ミルクを足さなきゃダメ」なんていうことは全然ありません。

ただ、病院の基本的な方針と自分の希望が合致していないとツラい思いをする可能性が高いので、希望と合う病院を探すようにしてくださいね。

どうやって調べる?調べにくい母乳育児の方針

母乳育児の方針が調べにくいのは主にこの2つかなと思います。

  1. ホームページに情報が書いていないことが多い。
    母乳育児支援は結局のところ「ケースバイケース」で、「必ずこうします!」と約束できることが少ないです。
    出産時の出血量やお母さんの貧血状況、赤ちゃんの呼吸状況…など、色々なことを考慮して、母乳育児をどう進めるか・進めないか決めていきます。
  2. スタッフと面と向かって聞くのに抵抗がある。
    忙しく動き回る外来スタッフに、産後のことまで聞くのが気が引ける、聞いていいのか分からない、ということもありますよね。

でも、正確な情報を得るためには、疑問に思うことをそのままズバリ聞くしかありません

電話で「何時頃なら話を聞くことができるか?」尋ねてみるのが一番いいと思います。

聞かれた方の病院スタッフも、普通は特にイヤな思いをしたりしませんから、遠慮なく聞いてみましょう。

直接話を聞くと、「スタッフによってさじ加減が違うんだな」と直感的に分かったりこともあるので、人づてに聞くよりやっぱりいいですよ。

積極的に母乳育児をしたいなら、選ぶべきはこんな病院

「できるだけ母乳だけで育てたい」「母乳メインで育てたい」という人はこんな病院を選ぶといいと思います。

母乳栄養を希望する場合の条件の一例
  1. 分娩台の上で出産後30-60分以内に授乳ができる。
  2. 分娩当日から昼夜とも授乳ができる。
  3. 分娩当日から、昼夜を通して母児同室(赤ちゃんを新生児室に預けるのではなく、同じ病室内で過ごすこと)できる。
  4. 熱心に授乳介助してもらえる(少なくともナースコールをしたら手伝ってもらえる)。
  5. 全員の赤ちゃんに対して「出生後〇時間で糖水/ミルクを与える」などの決まりがない。
  6. 帝王切開での出産でも、手術室内で、あるいは手術室からの帰室直後から授乳や乳頭刺激の介助をしてもらえる。動けるようになるまでは授乳毎に赤ちゃんを病室に連れてきて授乳介助してもらえる。
  7. 搾乳やミルクを補足する時に、哺乳瓶の人工乳首ではなく、カップなどを使っている。(生後早期に哺乳瓶の乳首に慣れると、お母さんの乳頭を上手に吸えなくなるリスクがあります)
  8. 産後の母乳相談が充実している。予約が取りやすい。
  9. 仮に積極的に母乳育児を推進していない病院でも、お母さんの気持ち・希望を最優先してくれる。
  10. IBCLC(国際認定ラクテーション・コンサルタント)がいる。

母乳育児を積極的に希望する場合はスタートダッシュがとても重要です!

特に初産婦さんはそうです。

あとから母乳分泌を増やす方法がないわけではありませんが、出産直後に比べると長い時間と労力がかかります。

「スタートダッシュが大事」に大きく関わるのが、母乳を作る「プロラクチン」というホルモンです。

プロラクチンは出産直後の分泌が最大で、そのまま授乳をしなければ産後7日目までに妊娠していない時のレベルまで低下してしまいます。

だから、「出産直後から『頻繁に』『適切に』授乳する」必要があります

これを支援してくれる病院で出産することが、スムーズに母乳育児を始める上ではとても重要です。

母乳育児にこだわらない・こだわりたくないなら、選ぶべきはこんな病院

「そんなに母乳に思い入れやこだわりはないかな…」という方はこんな病院がいいと思います。

母乳栄養にこだわらない(こだわりたくない)場合の条件の一例
  1. 母児同室の開始時期は相談して決められる。(「全員出産直後から!」というルールになっていない)
  2. 医学的適応がなくても、お母さんが「休みたい」と思ったタイミングで赤ちゃんを預けたり、ミルクを与えることができる。
  3. 夜間授乳するかしないかは、体調・希望によって決められる。
  4. 仮に「積極的に母乳育児をしたい場合」に書いてあるような方針の産院でも、お母さんの気持ち・希望を最優先してくれて、無理強いする雰囲気がない。

つまり、お母さんの希望に柔軟に対応してくれるか、当たり前のようにミルクをガンガン使う病院、と言い換えることもできるかもしれません。

それほど積極的に母乳育児をする気がないのに、母乳育児推進の病院で産んだ人の多くが、退院後こんな風に不満をもらします。

  1. 「あそこの病院はスパルタでしんどかった」
  2. 「やっと出産したのに、ちょっとも休めなかった」
  3. 「ミルクを足したいと言ったのに、持ってきてもらえなかった」

こういうのはお母さんの気持ちを汲み取れなかった病院スタッフの責任も大きいですが、「その病院を出産場所として自ら選んだ」人自身での責任でもあります。

選べるほど出産病院の選択肢がない地域は例外ですが、いくつか候補がある場合はこのように後に不満が残らないように、しっかりリサーチして病院を決めてくださいね。

分娩する病院を選ぶための5つの基本

ここまでは「母乳育児をしたい」「それほど積極的に母乳育児したいわけではない」といった、希望の栄養方法に合った病院選びのポイントについて書いてきました。

ここからは、それ以外の基本的な産院選びのポイントについてまとめます。

その①:自分のリスクに見合った病院を選ぶ

まずは、

  • 持病(高血圧・糖尿病・バセドウ病などなど…)があるかないか
  • 高齢妊娠かどうか
  • その他に何か妊娠・出産のリスクを上げる要因がないか

など、妊娠・出産に関係するようなリスクがないかよく考えて、自分のリスクに合った病院にかかるのが基本です。

ハイリスク妊婦さんなのに個人病院で産んで怖い思いをした経験

私が大学病院に勤務していた時、分娩進行中に血圧が高くなって胎児の状態も悪くなった妊婦さんが、小規模な病院から緊急搬送されてきたことがありました。

よくよくお話を聞いたり母子手帳で経過を見てみると、妊娠初期から血圧が高く、蛋白尿もあり、妊娠前からもともと高血圧気味だったのではないかと思われる妊婦さんでした。

なんとか母子ともに無事に出産されましたが、緊急搬送を受けた私たち大学病院のスタッフもとても怖い思いをしました。

この方の場合は、最初から小規模な病院で管理するのには無理があったんだと思います。

これは血圧が上がった後の妊婦健診も受け入れ続けた病院の責任でもありますが、最初の産院選びを誤ると危ない目に遭いかねない実例です。

何か気がかりなこと・不安に感じることがあれば、「私は〇〇という病気がありますが(あるいは〇歳ですが)、この病院で安全に管理することはできますか?」と妊娠判明~胎児心拍確認頃には確認しましょう。

確認するのに遠慮は不要です!だって、命を預ける産院選びですから。

その②:移動時間は30分~60分程度以内

いうまでもなく、計画出産でない限り、出産はいつ始まるか分かりません。

健診で「まだ全然!子宮口は開いてませんね~」と言われて、その日に出産する人は少なからずいます。

ごくまれですが、病院まで間に合わなくて、車やタクシーの中で出産する方もいます。初産婦さんでもたまにいます。

渋滞も考慮して、できるだけ車で30分以内、どんなに遠くても60分以内の産院が安全だと思います。

特に経産婦さんは30分以内程度が安全だと思います。

そして産み月になったら、産院から30-60分圏外に出掛けるのは控えてくださいね。

出先で陣痛が始まって、戻ってこられなくなる方もいますので…

その③:自分がしたいお産ができるか

出産は産院が主導して、言われた通りにやるものだと思っている方もいると思いますが、出産は妊婦さんのものです!

妊娠したばかりで、どんなお産がしたいかなんて分からないと感じるかもしれませんが、とても大切なことなのでパートナーや家族と是非話し合ってくださいね。

イメージがしにくい人もいると思いますので、お産への希望でよくあるものの例を挙げておきます。

出産への希望の一例

  • 夫・パートナーの立ち合い出産をしたい。
  • 上の子を出産に立ち会わせたい。
  • 出産の様子を動画撮影したい。
  • 仰向けでの出産だけでなく、横向きや四つん這いなど自分の好きな姿勢で産みたい。
  • 無痛分娩がしたい。
  • 陣痛が来てからも動き回ったりお風呂に入ったり自由に過ごしたい。
  • 生まれたらすぐに赤ちゃんを抱いたり授乳したりしたい。
  • とにかく安全に、医療設備が万全に整ったところで出産したい。
  • 入院中は家族も宿泊してほしい。

分娩に関してこのような希望がある場合は、分娩予約の前にホームページや電話で情報を確認してください。

実際にはこういった細かいことはホームページには載せていないことが多いと思いますので、直接電話をするか、実際にその産院で出産した人に話を聞くのが現実的です。

その④:産後のサポートが受けられるか

  • 簡単な相談は無料で電話相談できる。
  • 退院後1-2週間後にフォローアップ相談(母児の状態確認、母乳相談、育児相談などをする)が受けられる。
  • 曜日限定でなく、できれば毎日、常設で母乳相談外来・育児相談外来がある。

など、退院してからのサポート体制が充実した病院はおすすめです。

その⑤:快適に過ごすための設備・サービスはオマケ

  • 病室が明るくてキレイ。
  • 病室毎にトイレ・シャワーがある。
  • 食事がおいしい。
  • お祝い膳が素敵。家族と一緒に食べられる。
  • 産後のプレゼントとしてアロマトリートメントが受けられる。
  • 備品、アメニティが充実していて、手ぶらに近い状態で入院できる。

こういった快適性の追求はあくまで「集客のためのオマケ」です。

「母子ともに元気に出産して退院できること」は当たり前ではありません。

少数ですが例外もあり、何のリスクもない人でも出産の過程で赤ちゃんの具合が著しく悪くなったり、母体の出血が止まらなくて産後に集中治療が必要になる場合もあります。

万が一「生きるか死ぬか」の状況になった時に、病院の食事のことなんて気になりませんよね。

出産する病院を選ぶ時の本質は「安全に産めるかどうか」だということを念頭に置いて、その上で入院中の快適性を考えていただけたらと思います。

まとめ

出産する病院の選び方についてまとめました。

産院を選ぶ時は病院の設備やサービスで選ぶ人が多いですし、病院のホームページもそれを強く意識したものになっています。

でも本当の満足度を決めるのは、「出産の仕方や栄養方法について、自分の希望と病院の方針が合っているかどうか」です。

産後に困らないためにも、出産にわだかまりを残さないためにも、賢い産院選びをしてくださいね。