産院での調乳指導:お母さんには「受けない選択肢・権利」があると思う

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助産師&母乳育児支援者&一児の母。 「ちょっとの勉強で、妊娠・出産・母乳・育児はもっとラクチンできる」「『母乳だけ』も混合栄養も全部母乳育児」という思いで、科学的な視点+リアル感覚の両方から周産期のことを解説しています。

出産して産院に入院する1週間弱の間には、様々な「〇〇指導」がありますよね。

  1. 授乳指導
  2. 退院指導
  3. 沐浴指導
  4. 調乳指導

この中で、貴重な睡眠・休息時間がを犠牲にしてまで受けなくてもいい最たるものが「調乳指導」です。

何か事情があってミルクだけで育てる予定の人であっても、あえて参加するほど価値のある情報は提供されていないと感じます。

このページでは、私が調乳指導を受けなくていいと考える5つの理由についてまとめていきます。

ミルクが悪いわけではなく、「マーケティング(売り方)」に問題がある

このページだけをお読みいただくと、あたかも「ミルクは悪!母乳を与えるべき!」という印象を持たれるかもしれません。

でも、色々な事情でミルクが必要になる赤ちゃんは必ずいるし、私は「ミルクは不要!」とは微塵も思っていません。

ミルクを使う時には、お母さんの栄養法への希望に沿った形で安全に使う必要があるのですが、それを阻害する可能性のある「調乳指導の在り方」について問題提起しています。

理由①:調乳指導は「指導」というより、乳業会社の営業職の「宣伝」だから

初めて妊娠・出産される方は「調乳指導って何??」と思う人もいると思います。

結論から言うと、調乳指導は乳業会社に雇われた栄養士(営業職)が行う、ミルク(人工乳)の宣伝です。

ですから当然、調乳指導を行っている乳業会社のミルクは比較的高額です。

ミルク代に人件費がどっさりと乗っていますから。

調乳指導では具体的にどんなことが話されているか、私が実際に見聞きした範囲で一部をご紹介します。私の反論とともに。

調乳指導の内容の一例
  1. 市販されているミルクの作り方→ミルク缶(箱)の裏を見ればほとんどの人は理解できます。
  2. 哺乳瓶・人工乳首の消毒方法→消毒剤のパッケージを見ればほとんどの人は消毒方法は分かります。また、「消毒そのものが不要」という考えもあります。
  3. 授乳時間の目安や、ミルク量の目安→その母子の授乳の様子を一度も診てもいない人に、「その親子にとって」最適な授乳時間・ミルク補足量が分かるはずがありません。
  4. ミルクの成分は母乳に近づけています→近づけることはできても、「母乳と同じ」にすることはできません。

ミルク会社から営業にきた人の話ですから、調乳指導は基本的にはミルクをたくさん消費してもらえるような論調での話(=宣伝)になります。

「調乳『指導』」という名前がついていますが、指導ではなく「宣伝」なのです。

「病院で行われる調乳指導ですすめられたミルクだから安心。病院が採用しているミルクなら安心。」

お母さん達をこんな気持ちにさせて、自社のミルクを購入してもらおうという販売戦略なのです。

これが、私が調乳指導を受けなくてもいいと考える1つ目の理由です。

理由②:「ミルクを調乳する温度(80℃以上)」についての指導がないこともあるから

ミルクを安全に使ってもらうために重要な情報の1つに「調乳温度」があります。

ミルクにはサカザキ菌という細菌(敗血症など命に関わる病気の原因になることがある)が混入している可能性があります。

このサカザキ菌を死滅させるためには70℃以上のお湯で調乳する必要があります。

温めたお湯を哺乳瓶に移し替えると10℃くらい温度が下がるので、現実的には80℃以上に加熱したお湯で調乳すべきです。

ところが、指導内容に組み込むべき唯一の情報といも言える「調乳温度」について言及しない栄養士(営業職)もいるのです。

これが、調乳指導を受けなくていいと私が考える2つ目の理由です。(というか、そんな1分で済む説明は退院指導で一緒にすればいいのではないかと思います。)

理由③:調乳指導は、産後の貴重な睡眠・休息時間を犠牲にしてまで受けるべきものではないから

調乳指導の所要時間は30~60分です。(行う栄養士・参加人数によって左右します)

理由①・②で、「必要な情報が欠落した『宣伝』だから、調乳指導を受けなくてもいいと思う」ということ書きました。

ましてや、この調乳指導を受けるのは、産後間もない

  1. 眠くて
  2. 疲れていて
  3. 人によっては体のあちこちが痛くてしょうがない

時期です。

産後の体力・精神力回復、母乳分泌を軌道に乗せるためには、休息とリラックスが必要です。

そんな大事な時期に、わざわざ商品の宣伝を聞きに行かなくてもいいんじゃないでしょうか。

理由④:母乳栄養を希望するお母さんにとっては、調乳指導を受けることで母乳育児を阻害される可能性があるから

調乳指導は、乳業会社の「宣伝」ですよと書いてきました。

「母乳が一番ですが」と前置きはするものの、ミルクの優秀さや手軽さを謳い、たくさんのお土産(ミルクのサンプル。1缶丸ごともらえることが多い!)を配布するのが調乳指導です。

つまりどういうことかというと、母乳で育てたいと考えるお母さんにとっては、母乳育児を妨げる情報がたくさん盛り込まれているということです。

調乳指導によって、こうやって母乳育児は妨げられる
  1. 「母乳育児したいけど、まぁミルクも悪くないわね」という気持ちになる。
  2. サンプルたくさんもらったし、手元にせっかくあるんだから使うか!という気持ちになる。
  3. サンプルミルクを使う→授乳回数が減る。
  4. 授乳回数減少→母乳分泌量が減る。
  5. 母乳分泌が減る→ミルクが必要になる。(ミルクの新規購入)

ミルクを使えば使うほど、赤ちゃんが母乳を飲む量が減るのが普通です。

母乳は赤ちゃんが飲んだ分しか新しく作られない仕組みになっていきますから、安易にミルクを使うことで、あっという間に母乳が出ない状況に陥ることも少なくないのです。

それから、調乳指導に参加するということは、こんなこと⇩も招きます。

  1. 30~60分の調乳指導に参加するために授乳時間を調整する必要があり、心身のエネルギーをムダに使う。
  2. 調整できずに参加中に赤ちゃんが空腹で泣いたら(産後早期はそんなに簡単に調整できませんものね)、新生児室でミルクを与えていることも残念ながらある。

調乳指導に参加するということは、はからずも母乳育児を阻害することです。

もし母乳育児をしたいと考えているなら、調乳指導はむしろ「受けない方がいい」とさえ言えると思います。

理由⑤:調乳指導で配布されるミルクサンプルは「母乳代用品のマーケティングに関する国際規準」違反だから

そもそも、ミルクの販売についてはWHOが定めた「母乳代用品のマーケティングに関する国際基準」があり、日本もこれに批准しています。

「母乳代用品のマーケティングに関する国際基準」の概要

  1. 消費者一般に対して、母乳代用品の宣伝・広告をしてはいけない
  2.  母親に試供品を渡してはならない
  3. 保健施設や医療機関を通じて製品を売り込んではならない。これには人工乳の無料提供、もしくは低価格での販売も含まれる。
  4. 企業はセールス員を通じて母親に直接売り込んではならない
  5. 保健医療従事者に贈り物をしたり個人的に試供品を提供したりしてはならない。
    保健医療従事者は、母親に決して製品を手渡してはならない。
  6.  赤ちゃんの絵や写真を含めて、製品のラベル(表示)には人工栄養法を理想化するような言葉、あるいは絵や写真を使用してはならない。
  7.  保健医療従事者への情報は科学的で事実に基づいたものであるべきである。
  8. 人工栄養法に関する情報を提供するときは、必ず母乳育児の利点を説明し、人工栄養法のマイナス面、有害性を説明しなければならない
  9.  乳児用食品として不適切な製品、例えば加糖練乳を乳児用として販売促進してはならない。
  10.  母乳代用品の製造業者や流通業者は、その国が「国際規準」の国内法制を整備していないとしても、「国際規準」を遵守した行動をとるべきである。

日本ラクテーションコンサルタント協会HPより

日本は「母乳代用品のマーケティングに関する国際基準」には批准しているものの、それを規制する法整備はほとんどされていません。

だから、この⇧国際基準を無視したマーケティングが横行しているとも言えます。

産院側も乳業会社から様々な返礼品を受け取っていることが多いので「切っても切れない縁」になっています

国際的に「ダメ!」とはっきり明言されているマーケティングに、産後間もない疲れた心身のお母さんが参加する必要はないと私は思います。

調乳指導について、お母さんは「No!」を言う選択肢・権利があります。

ここまで、調乳指導に参加しなくてもいい5つの理由についてまとめてきました。

「でも、病院のスケジュールで決められているんだし、受けなきゃいけないんでしょ?」

と思っている人も多いと思います。

ミカ子
でも私は、お母さんには調乳指導に対して「No!」と言う選択肢や、もっと言えば権利があると思います。

実際、WHOの「母乳代用品のマーケティングに関する国際基準」では日本の調乳指導は「国際基準違反」なのですから、産院のスタッフに参加を促されても、それを拒否したとしても何ら問題はないはずです。

なんとなく受動的に受けて、

  1. 貴重な休息時間を犠牲にしたり
  2. 授乳のタイミングを失ったり(新生児室でミルクを足されたり)
  3. はからずも乳業会社の戦略に乗って、「ミルクも悪くないな」とある種の刷り込みを受けたり

してほしくないなと思います。

(ちなみに…私自身の産後は、調乳指導はお断りして寝てました。)

まとめ

調乳指導がはらんでいる問題点から、調乳指導を受けなくていい5つの理由についてまとめてきました。

冒頭にも書きましたが、だからと言ってミルクが悪いのではありません

必要な時には、必要な分だけ、適切にミルクを使うことが必要です。

ミルクを使い過ぎれば、あっという間に母乳は出なくなることも多々あります。

つまり、母乳栄養希望のお母さんに対しては、いわば「お薬のように」ミルクを使う必要があるんですね。副作用(母乳が出なくなるなど)を考慮して

重要なのは、

  1. ミルクが必要な時
  2. 必要なミルク量
  3. ミルクを与えるタイミング・頻度

は、実際の授乳の様子や母子の心身の状態を把握している人にしか判断できないということです。

個人個人状況が異なるのですから、授乳指導は本来は集団ではできません。個別に受けるべきだと思います。

本来であれば病院が調乳指導を排除すべきですが、様々な癒着があり難しいようです。

こういった利害関係にお母さん達を巻き込んで心苦しい気持ちですが、おそらくすぐには解決されない問題だと思いますので、どうか自衛してほしいと願いを込めてこの記事を書きました。